ふたりのこども 少し前方から聞こえるのは、最近仲間になった少女の声。 彼女と一緒に茶を交わしているのは、自分と最も気の合う友人。 この頃はそんな風景をよく目にする。 聞いた話によると、彼女は彼の義理の姪らしい。 彼らが仲良くしている姿は実に微笑ましいものだし、別に心配する事も無いだろう。 だが、自分が彼と話をする時間が減ってしまうのが嫌だった。 ただでさえ立場上あまり彼と顔を合わせる機会が無いというのに、ようやく取れた貴重な時間を台無しにされると流石に気分が悪くなる。 相手は子供だというのに、それこそ子供じみた独占欲に思考が支配され、つい行動に出てしまった。 楽しそうに話に華を咲かせる2人に一歩一歩近付いていく。 あと数歩で声が届く範囲だという所で、彼の方が此方の気配に気付いたようだ。 「パント様」 「やあ、カナス。それに…確かニノ、だっけ?」 「ハイ、こんにちはパント様!パント様のことはカナスさんやエルクさんから聞いてます」 「そうかい?じゃあ改めて宜しくするよ。…ところで、やけに楽しそうに見えたが、一体何の話をしていたんだい?」 「あ、パント様それは…」 「カナス、私は今ニノと話をしているのだよ」 「…すみません」 「パント様っ、カナスさんをいじめないであげて!」 「?」 少し彼に意地悪をしてやろうと思ってこんな態度を取ったのに、何故かニノの方が反発してきた。 子供に責められると、まるで悪者にされた気分になって後味が良くない。 それを表情に出すと、今度は彼が口を出してきた。 「パント様…少しお話があります。ニノちゃん、ありがとう」 「ううん!その…がんばってね」 「うん、それじゃあ」 「……」 彼らの会話の内容から察すると、彼はニノに何か─それも自分についての事を相談していたらしい。 どうやらそれが今から明かされるらしい。 此処では話し難い事ですから─と言う彼に、ここは大人しく従った。 連れて来られたのは、軍が駐留している宿に在る資料室だった。 確かに此処ならば人の出入りが殆どない為、言い難い話も大分安易に出来るだろう。 そこで彼は、少し途惑った表情をして話を始めた。 「あの、パント様…?」 「何だい?」 「僕は何か貴方の気に障る事をしてしまったのでしょうか?先程から機嫌が悪いように見えました。もしそれの原因が僕にあるのなら、話しては頂けません か?」 「いや、それは別に大した事ではないんだ。気にしないでくれ」 「はあ」 「それよりも、何か私に用事があったのではないかい?是非とも聞かせてほしい」 「そうでした。あの、パント様の…」 「私の?」 「パント様のお誕生日は…確か明日でしたよね?」 「そう言えば、確かに明日だったな」 「僕に用意出来る範囲内のもので、何か欲しい物はありませんか?もしご迷惑でなければ贈らせて下さい」 「もしかして…その事をあの子に相談していたのかい?」 「はい、お恥ずかしいながら」 彼の話を更に繙くとこうだった。 昨日の昼間、進軍中に彼は自分の妻と話をする機会があったらしい。 その時、自分の誕生日が明日である事を聞いた。 更に、当日は忙しいらしいという話も聞いて、今日慌てて誕生日プレゼントを用意しようと色々相談を受けていたという。 多少吃りながらもそれを語る彼の姿が可愛くて、また自分の為に彼がここまで動いてくれたのが嬉しくて、思わず叫び出しそうになる。 それを堪えて、代わりに声をあげて笑う事で誤魔化す。 そんな自分の行動の意味が分からないのか、呆気に取られたような表情を見せ、声をかける。 「ぱ、パント様?一体どうしたんです」 「ははっ、嬉しすぎておかしくなったみたいだ」 「?」 「そう言えば、何か欲しい物を挙げればよかったんだね」 「あ、はい。僕の用意出来る物でしたら何でも」 「それじゃあ…おいで、カナス」 「え、ええっ!?ちょっ、パントさ…ふうっ…!」 彼に静止させる隙を与える前に、その唇を塞ぐ。 短いキスを十分に堪能した後、接近距離の状態のままで囁いた。 「カナス、今夜は一緒に寝よう」 「でも奥様は…」 「ルイーズには話をしておく」 「でも、部屋の割り振りは…」 「それなら私から軍師殿を説得しよう」 「でも…」 「さっきから『でも』ばかりだな。そんなに私と一緒の部屋が嫌かい?」 「そ、そんなことはありません。しかし…」 「これが私の『欲しい物』だと言ったら?カナス…如何しても用意できそうに無いかい?」 「…本当にそれで良いんですか?」 「ああ、君と共に居られる事が、私にとって何よりの誕生日プレゼントだよ」 寝台の中、彼と無言で視線を交わす。 握った手から温度を感じられて、思わず笑みを溢してしまう。 暫くはそんな遣り取りを繰り返していたが、ふと彼の方が口を開いた。 「そう言えばパント様、何故あの時機嫌が悪かったんですか?」 「あの時?」 「ほら…昼間ニノちゃんと話をしていた時ですよ」 「ああ、あれはね…」 「何ですか?」 「あれは…あの子に嫉妬していたからだよ。この所忙しくて2人でゆっくり話せなかっただろう?だから、君達が楽しそうに会話しているのを見て…妬ましく なった」 「…まるで子供ですね」 「呆れたかい?」 「いいえ、むしろちょっと可愛いと思ったくらいですよ」 「ははっ、言うようになったね、カナス」 「パント様程では無いと思います…一応」 冗談を言い合う瞬間すら愛しい。 こんな時間も、この戦が終わったら無くなってしまう。 だから─せめて今だけでも手を握っていたい。肌を重ねていたい。 結んだ手に力を込めて、もう一度彼の葡萄酒色の瞳を見つめ直す。 目がまともに合って、彼は視線を逸らす。 厭だからでは無く気恥ずかしいから…と思いたい。 後ろめたい気持ちは今は捨てて、彼の頬に手を添え、此方を向かせる。 俯く顔を上げさせ、今日何度目かの接吻を奪った。 髪の毛同様顔を真っ赤に染める彼に、悪戯を成功させた子供の様な笑みを向けた。 今年は例年よりも素敵な贈り物を受け取れたようだ。 何十年後も─お互いが死んだ後も思い出せるように、今日のことを深く胸に刻みつけておこう。 君と過ごした一つ一つの思い出全部が、私にとって大切な宝物なのだから─ |
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