ずっと近くに



身体に微かな冷気が感じられる夜。


ナターシャはノールを、半ば無理矢理に外へと連れ出した。
満天の星が足元を照らし、狭い野道を進む2人を導く。

ノールの手を引き続けるナターシャを、彼は意味が分からぬといった様子で見つめる。


「ナターシャ殿…どうしたのですか?」
「……」
「ど、どちらに向かっているのですか?」
「……」
「……」


ノールが先程から投げかけている質問を、ナターシャはことごとく無視し続けている。


小川の水面に星の光が反射し、2人の姿を映した。
自分達の姿が揺らめいている様子を見て、彼女の手の力が強くなる。
何故かその手を離してはいけない様な気がして、ノールはそれを軽く握り返した。



村はずれに来た所で、ナターシャの足が止まった。
民家の明かりもかなり遠ざかっている─宿屋に戻るにも時間がかかりそうだ。


「……」
「…あなたは、どうして私をここに連れて来たのですか?」
「!」
「いえ、どうして外に連れ出したかといった方が正しいでしょうか。あなたは私と違って・・・・・親 しい方がたくさん居ます。それなのに何故わざわざ私を連れ出したのでしょうか。何か理由があるのでしょう?」
「…それは」
「私はあなたに手を引かれている間、その理由をずっと考えていました。しかし、納得の出来る結果が出ませんでした。…教えてはもらえないでしょうか?」


口を噤むナターシャの肩を掴み正面を向かせ、ノールは彼女を問いただす。
何時もの柔和な表情は消え、厳しい顔─自分とぶつかり合っている時と同じ顔をする彼を、ナターシャは戸惑いを隠せずに潤んでしまった瞳で見つめる。


気まずい時が静かに流れ、それに堪えきれなかったナターシャがようやく口を開いた。


「あ…あなたは、ノール殿はどうしてこの軍に、この戦に参加したのでしょうか?」
「…リオン様が【魔王】にされ、私は歩む べき道を見失いました。私がお慕いしていたリオン様の精神は消滅しました。しかし、身体の方は未だ生きている─ 悲しい事に。リオン様ご自身でも止められなかった程強大な力を持つ魔によって、いまだ健在しているのです。だからせめて、この手で眠らせてあげたい─そ う、かの昔の日、彼の耳元で子守唄を聞かせてあげた時の様に。…これが私がこの戦いに加わっている理由です」
「…そうですね。知っていました、あなたはリオン様の為に戦っている。だから怖いのです。【魔王】が再び封印され、リオン様が魔から解放された時、あなた も一緒に消えてしまうのではないか…そう思ってしまうのです。もう私は自分に嘘を付けない!あなたが…ノール殿が私の前から居なくなってしまうのが怖 い…!!」
「な、ナターシャ殿…!?」


ナターシャはノールの胸元に突っ伏し、その大きな瞳にたまった涙をぽろぽろと零した。
表情は見えなかったが、彼女は恐怖と自己嫌悪に満ちている─そんな呻き声を上げた。


最初は動揺する事しか出来なかったノールも、次第に落ち着きを取り戻し、泣きじゃくる彼女にとことん付き合った。



「…落ち着きましたか?」
「…はい、ご迷惑をおかけしました」
「それはお互い様ですよ」


暫くの間を御気、2人は近くの草むらに座り込んでいた。
すっかり目の下が赤くなってしまったナターシャの頭を、ノールは優しく撫でる。

軽き息をつき、彼は更に続けた。


「…ずっと近くに、ずっとあなたの近くに居ますから」
「えっ…?」
「ナターシャ殿が望んで下さるのなら、私はここに居ます。もしそうでないのならば、あなたの言葉通り消滅するでしょう。悔いはありません、私にはもう何も 残っていないのですから。しかし、私の存在を認めてくれる人が、私を求めてくれる人が居る限り、消えるわけにはいかないのです」
「ええと…それって」
「私は…あなたの傍に居ても良いですか?」
「はい!ずっと、ずっと私の近くに…」


星々が周りを照らし、全体が青白い光に包まれた中。
2つの黒いかたまりが、静かにひとつになった。




ノール×ナターシャ。
BGM:ずっと近くに@aiko


ブラウザバック


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送