約束の褒章



講義を終えて、生物研究室へと戻ってきた。
時計の針は午後4時半を指す。
いつもならば二木君がとっくに来ていてもおかしくない時刻であるのに、今日は彼の姿が無い。
そういう日もあるか―そう呟きながら、机の上に散乱した書類の整理を始めた。

書類があらかた片付いた頃、廊下の方から、聞き覚えのある騒がしい声が聞こえてきた。
そして研究室の扉が乱暴に開けられる。

「教授教授教授〜!!」
「…やはり君か。一体どうしたというのかね」
「教授!俺、ヤっちゃいました★」
「はあ!?」

二木君は満面の笑みで、何かのプリントを突き付けた。
それは彼の、期末試験の成績表。
自然な流れで順位を見てみると、352人中6位と表記されている。

「だ・か・ら!学年6位、取っちゃったの!!」
「学年6位か、凄いな…」
「教授ぅ、あの約束は当然覚えてますよね?」
「約束?」
「忘れたとは言わせませんよ。学年10位以内取ったら、ごほうびくれるって言ったじゃん!」
「…あ」

それは数ヵ月前、二木君の中間試験の成績が出た頃の話。
その時の順位は、下から数えた方が早かった。
私は彼を叱った―本当は上位も狙える能力を持っているのに、わざと手を抜いたからだ。
それでも納得のいかない表情をする二木君に、私は課題を出した。
それがさっき言っていた『約束』という訳だ。

「ねぇねぇ〜!俺の欲しい物なら、何でもくれるって言いましたよねぇ?」
「分かった分かった。何が欲しいのかね、言ってみなさい」
「あのですね…ゴニョニョ」
「な、何ぃ!?」

二木君が要求した『ごほうび』に、私は思わず声を大きくした。
しかし彼はそんな事お構い無しにおねだりを続ける。

「教授ぅ、俺マジで頑張ったんだよ?」
「それは分かるが、しかしだな…」
「…どうしても、駄目?」
「…っ!」

彼のサングラスの奥に光る、小動物かの様な瞳。
それから発せられる無視し難いオーラに、それ以上反論する事は出来なかった。

「…1回だけだぞ」
「わーい!教授だいすき〜vvv」
「ハイハイ、良い子良い子…」

私に抱きついて喜ぶ二木君の背中を、適当に相槌を打ちながら撫でた。
自分の甘さに、正直涙が出そうだった。






埃が舞う生物研究室に、カチャカチャと金具がぶつかり合う音が響く。
床にしゃがみ込み、ぎこちない手つきで自身のベルトを外す様子を、二木君はソファーに腰かけて眺めていた。
時たま助手の方を見上げて何かを訴えるが、否定される―仕方無く再び俯いた。

「教授、早くして下さいよ」
「ほ、本当にやらなければいけないか?」
「当たり前じゃないっスか。俺への『ごほうび』なんスから」
「そうか…」

二木君は『ごほうび』として、私の自慰行為を見せる事を要求した。
そんなものを見て楽しいかと尋ねたが、彼は笑顔で頷いた。
普段であればこんな屈辱的な要求には応じないだろう、しかし今日は何故だか彼の願いを叶えてあげようと思った。
それは親心に似た感情か、はたまた別の感情か。

もたもたしているうちにベルトが外れたので、下着ごとズボンを下ろした。
それほど立派ではない己の陰茎に手を添える。

「こんなに近くで見るくらいなら、いっそ君が触れてくれ」
「だーめ。それじゃ意味無いっしょ?」
「そん、な…生殺しではないかっ!」
「予想通り、すげえ色っぽい。もっとやらしい声、出してよ」
「…っくぅ」

耳元で囁かれて思わず漏れそうになった声を、何とか押し殺した。
娘よりも若い少年の声に、不覚にも感じてしまっているのが悲しかった。
微妙に固くなりかけている己を、ゆっくりと刺激し始めた。

「…っは…んう…んはぁ、んんっ…ふぁああっ…!」
「教授」
「なっ、なんだね」
「名前、呼んでくんない?お願い」
「っ…きくん…」
「…ん」
「たの、むから…さわ…二木君…っ!」

プライドも何も関係無く、手の中にあったものはあっさり果てた。
それを見た二木君は、何を思ったかサングラスとヘッドホンを外した。
目と目がまともにぶつかり合う。

「やべ…アンタ、えろすぎだって」
「君には、言われたくない」
「俺、もう我慢出来ない」
「ちょ、まさか」
「…それ」
「年寄りに無理をさせないでくれないか」
「ゴメン、それこそ無理…イタダキマス」

申し訳無さそうにしながら私の首筋にかぶりつこうとする二木君を、溜め息をつきながら迎え入れた。






大きく開いた窓から、部屋の中の空気と外の空気とを入れ換える。
籠った熱が離れてすっきりしたと思う反面、名残惜しくも思った。
もっとも、未だこの腰に残る鈍い痛みは早くひいて欲しいのだが。
お陰で立ち上がる事も叶わず、ソファーで横になる羽目になっている。
その原因となる者を睨み付けると、彼はへらへらとした表情で口を開いた。

「教授ぅ…んな顔しないで下さいよぉ」
「……」
「誘ってる様にしか見えないっスよ?」
「…ハア」
「スミマセン、調子に乗りました」

声の調子を低めて諭すと、二木君はようやく頭を下げた。
しかし胸糞の悪さは晴れず、私は説教を続けた。

「大体君は、本当に反省しているのか」
「マジで反省してます。俺も流石に3回はヤりすぎたと思ってます。許して?」
「…ハァ」
「どんな仕事でもしますから…この通り!」

ソファーの足元辺りで土下座をする二木君を見て、段々不憫に思えてきた。
もとより本気で怒っていた訳では無かった分、滑稽にも感じる。
いい加減、怒るふりをやめよう。

「…コーヒー」
「へ?」
「熱いブラックコーヒーを入れて来たら、許してやらなくも無い」
「ま、マジで!?」
「…だから、早くしたまえ」
「よっしゃ!今入れてきますから、その間にコレでも舐めてて下さい!」

そう言って二木君は、私に向かって派手な包装の飴玉を投げつけ、給湯室へと消えていった。
どぎつい色合いの飴を口に含むと、やはり下品な甘さがした。
でも嫌いになれない味だった。
与えたつもりが与えられている―奇妙な感情になった。




アンケで見事1位を勝ち取った、ニキ鴨えろ。
温くて大変申し訳無い。



ブラウザバック


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送