僕を指す固有名詞



特に大きなイベントも無い、平日の朝。
ナカジくんと一緒に朝食を摂る、日常の光景。

今日もいつも通りに味噌汁をすすっていると、ナカジくんがこちらをじっと見つめている事に気付いた。
あまりに強い視線に思わず俯きそうになるが、それも出来ずにただ見つめ返していた。

微妙な緊張感が漂う中、ナカジくんがぽつりぽつりと話し始めた。

「昨日…ヒグラシさんの友達って人に話しかけられました」
「えっ、誰?」
「肌が黒くて、いかにも体育会系って感じの人」
「もしかして泳人くん?それで、何て言われたの?」
「別に、他愛無い事でしたけど」
「そ、そっか…」

ナカジくんによると本当にたいした内容でもなく、身体の力がすっと抜けた。
のに、彼の視線は鋭いままで。
まともに目が合って、今更恥ずかしくなった。

ナカジくんは一気に味噌汁をかっこみ、そしてまた口を開いた。

「ハジメ」
「え」
「…って呼ばれてるんですね、あの人に」
「ま、まあ、友達だしね…」
「そうですか」

びっくりした。

名前を呼ばれるだけで、こんなにドキドキするなんて思わなかった。
何とか平静を装ったけど、本当は持っていた茶碗を落としそうになる程動揺していた。
20年以上呼ばれ続けてきた名前なのに。

ナカジくんは席を立ち、通学鞄を持って部屋を出た。
その途端に、ちっぽけな理性で支えていた身体が崩れた。

ただ名前を呼ばれただけで。






その後の通学路―

ナカジは溜め息をつきながら歩いていた。
そんな彼の後ろから、タローが勢い良く走ってきた。

タローはナカジに飛び付き、友人の眉間に寄った皺をつつく。

「おーい、ナカジ。今日はいつも以上に暗いぞぅ?」
「煩い…馬鹿は引っ込んでろ」
「ひどーい!せっかくヒトが心配してるのにぃ!!」
「…ハア」
「なーかーじー、何か悩みでもあんの?」

タローに指摘され、ナカジ身体を震わせた。
それを見て、タローはニヤリと笑う。

「あー!この感じは恋バナだなぁ?」
「不覚だが…そうだ」
「ね、ね!なしたなした!?」
「実は…ヒグラシさんの事を名前で呼びたいんだが、勇気が…無い」
「なるほどぅ。そんじゃさあ、アレで練習したら?」
「?」

タローが指差した先には、校門で挨拶をする教師陣が立っていた。
それを見て、ナカジは頷く。

そして彼等は校門の前に差し掛かり、目の前には2人の教師が居た。

「連、中島。おはよう」
「DTOにハジメちゃん、おっはー!」
「おはようございます。右寺先生、と……ハジメ先生」
「!?」

一抹の嵐を残し、生徒達は校舎に入っていった。
ハジメはそんな彼等を見つめ、大きな瞳を涙で潤ませた。
それを見て心配になった先輩教師は、後輩を覗き込んだ。

「ハジメ〜、大丈夫か?」
「センパイ…オレ、嬉しさで死にそう」
「は!?」
「あの中島が…オレの事を名前で呼んだ!」
「あ、そう言えば」
「ヤバイ…ぐはっ!!」
「!? ハジメ…ハジメー!!」

DTOの腕の中で、ハジメは力尽きた。




アンケより甘々ナカヒグ。
元ネタは某ほもまんが。



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