すきまかぜ 用事を済ませ社会科準備室に戻ると、扉が微かに開いている。 誰か来ているのだろうと思って中に入ると、見慣れた奴がそこに居た。 ただ珍しかったのは、そいつ―祭事総合実行委員会委員長である浅野貴志が、オレの愛猫・松本さんと一緒にすぴすぴ眠って居た事。 いくら退屈だったとはいえ、勝手にオレ様の椅子に座ってんじゃねーよ。 そう思って浅野に近付く。 顔を覗き込むと、いつもの無愛想な 「…めっずらしー…」 高校生のくせに老成しきって隙の無い浅野の無防備な面を見れた事で、オレは軽い優越感に浸った。 …そう言えばコイツ、滅茶苦茶忙しかったんだっけ。 オレは浅野の寝顔眺めながら、普段の奴の行動を思い出す。 実行委員会の他に、生徒会の活動、空手部の練習。 放課後の浅野はとにかく忙しい。 しかもコイツは生真面目な性格のせいか、多少無理をしてでも全てこなし続けている。 前に奴の幼馴染みの秋山が、「タカは寝付きが異常に良いんだよ」と言っていたが、こんな生活をしてれば嫌でもそうなるだろう。 松本さんの方はとっくにオレの気配に気付いて起き上がっているのに、浅野は未だに夢の世界に滞在中のようだ。 机の上には実行委員の書類が上がっている。 恐らくコレを提出しに来たのだろう。 いつも振り回されてるんだ…ちょっとくらい遊んでも良いよな? 静かな寝息を立てて眠ってる浅野を、もっと近くで観察してみる。 指で顔を突ついたり、鼻を摘んだりしても起きる気配は無い。 …忙しくて疲れているとはいえ、ちと鈍感すぎなんじゃねーのかよ。 完全に悪戯心に支配されたオレは、奴の身体に跨った。 これは―そう、この間の仕返しだ、そう考えながら浅野の顔に手をかける。 思考がぼーっとさせながら顔を近付ける。 もう互いの吐息がかかる距離になって― 「にゃー」 「!!…だあっ!」 突然松本さんが鳴きだし、ふと我に返って後ろに転げ落ちてしまった。 流石に気付いたのか、今まで熟睡していた浅野も起きたみたいだ。 「んっ…先生?」 「あ、ええと…起きたか浅野」 「はい、お見苦しい所をお見せしました」 「いや、それは待たせたオレが悪かったし良いって!」 「…それじゃあこの書類の件なんですけど…」 もしかしてさっきの事気付いて無い…?なら全然問題無しだ。 肩を撫で下ろして書類に目を向けつつ相槌を打ってると、浅野がオレの耳元で呟いた。 「先生…ああゆう悪戯は心臓に悪いので、もう勘弁してもらえませんか?」 扉の隙間から吹き抜ける風が、動揺しまくって冷や汗だらけのオレの身体を乾かした。 |
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