紫の華



障子の向こうでは、雨がしとしと降っている。
薄い紙ごしに紫陽花の薫りがほんのりと伝わってくる。


気怠い空気が流れる中、何気無く隣で眠っている者を見た。


純白の敷布の上に散るのは紫の華。
綻ぶ蕾は水泡の如く。
妖しく輝く宝玉は、未だ姿を現さず。
この手を滑らす絹の肌。
点々と落つる果実は愛の証―


情事の後だという事で、彼の表情には疲れが見られる。
やはり体力の差と、受け身側としての負担は膨大だというのか。



彼の長髪に触れた。

地肌から伝わる熱は、燃え盛る炎の様だ。

しかしそれよりも、彼の内部の方が身を溶かす程熱い。
突き進む度に溶岩を泳いでいる様な感覚になったが、それと同時に何とも表現し難い快楽を味わえた。


営みの内容を思い出し、思わず顔が緩んだ



「…んっ」
「ああ、起こしてしまいましたか」
「諸葛亮、日はまだ昇っていない。明日の為に、貴様も少し眠った方が良い…」
「そうする事にします。貴方を抱いて、眠りについても良いですか?」
「フン…勝手にしろ」



そうして再び横になり、彼を抱いて目蓋を下ろした。


彼の髪に顔を埋めると、上品な香の匂いがする。
決して舐めてはならない禁断の甘い蜜の様な香りのそれは、彼の印象にぴったり当てはまってて好きだった。

その香りを楽しんでいると、彼は俺の胸に鼻を擦り付けてきた。
まるで私の真似をしてるかというその姿は、内側から水が溢れ出るかの様な感情にさせる。


流るる水跡は滝の如し。
想い溜るは夢泉。
零れる水滴は乳冠の様。
広がる痛みは恋心。
気付いた頃にはもう戻れない。
淀みは既に深部まで来たり。


甘美が睡魔に変わってしまう前に、もう一度彼の名を呼んだ。


「司馬懿」
「…何だ」
「また、貴方の許を訪ねても構いませんか?」
「好きにしろ。別に…貴様と肌を合わせるのは、嫌いじゃない」



彼の弱々しい呟きが響く中
、薄れる意識を手放した。



ポプ小説「My sweet baby doll」の諸葛亮×司馬懿Ver.
殆ど同じ内容なのに、がらりと印象が変わって面白かったです。


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