クッキー



―コンコンコンコン!


時計の針が午後9時を示す頃。
早めのリズムでドアがノックされる。
みっちゃんは読んでいたお菓子作りの本を閉じ、扉を開けた。


「お姉ちゃん、聞いて聞いて!」


間髪入れずなつ坊が部屋に飛び込んでくる。
にこりと微笑みながら、みっちゃんは自室に弟を招き入れた。


「どうしたの?なっちゃん」
「あのね、あのね。今日リコーダーのテストだったんだ!」
「うん?」
「そんでね、先生に上手だねってほめられたんだよ!」
「…くすっ」


嬉々として熱弁するなつ坊の頭を、みっちゃんは優しく撫でた。
撫でられた当人は、きょとんとした表情をしている。


「なっちゃんは本当に先生がだいすきだね」
「え、何でわかったの!?」
「だってなっちゃん、先生の事ばっか喋るんだもん」
「しょうがないじゃん、だいすきなんだから…あ、じゃあ」
「ん?」
「お姉ちゃんはギター剣道の兄ちゃんがだいすきなんだね!」
「はぁっ!?」


弟の問題発言に、みっちゃんは思わず声を荒げる。
ずれた眼鏡をかけ直しながらも、動揺は隠しきれない。

そんな姉を不思議に思いながら、なつ坊は続ける。


「お姉ちゃんも、いつもあの兄ちゃんの話ばっかしゃないか」
「…そっ、そうだっけ?」
「そうだよ!」
「きっと気のせいだよ!ほらっ、子供はもう寝る時間なんだから!!」
「…ちぇ」


みっちゃんに怒鳴られ、なつ坊は渋々部屋を出ていった。
無邪気な弟の気配が確かに無くなった事を確認すると、みっちゃんは溜め息をつく。


お気に入りのししゃも人形を抱き締め、ぽつりと呟いた。


「わたしがギタケンさんを好き?でもわたしは、先輩が好きなのに…」


脳裏に浮かぶのは、憧れの先輩の姿。
掠れているけど優しい声、転んだ時に支えてくれた暖かい手のひら、そして人の良い笑顔。
…そう言えばあの人に似てるかも。


一瞬彼とギタケンの姿が重なって再生され、みっちゃんは慌てて首を振った。
その反動で目の端に写った、小綺麗に包装された2つの箱。

箱の中には手作りクッキー。
ひとつは彼に、もうひとつはギタケンに贈ろうとしていたもの。


「ええと、ギタケンさんにあげるのは、いつもお世話になってるからで…特別な意味なんか無い、よね?」


自分で自分に問いかけても、答えは返ってこない。
心にかかった靄を晴らす事は出来ず、みっちゃんは布団の中に潜り込んだ。




ギタケン←みっちゃん風味。勢いで書いた。
ウチのみっちゃんとなつ坊は姉弟設定。


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