集合の時間より少し早く、目的の場所に着いてしまった。
スタジオの予定表を見てみれば、借用時間には一応なっている。

─中で待っていても良いか。

薄暗く狭い廊下を、するすると抜ける。

奥に近づくにつれて、ぽつぽつと浮かぶ音達。
単体で漂うそれらは次第に群れを成し、旋律となる。
ふわふわと漂う妖精達は、優しいというのに切なげで。
その理由はすぐに分かった─ギターに乗せられた歌声のせい。
少しくぐもっているというのに直接染みる、熱っぽい声。
よく知るそれは、予想通り一番奥の部屋から漏れていた。

気付かれない様に扉を開くと、やっぱり寺島が居た。

こっそり歌詞を聞き取ろうとしてみたが、どうやら英語の詞らしく意味までは分からない。
もっと近づこうとすると、右足首に違和感を感じた。

─ガタン

「っ!?」
「…やっほー」

うっかり足をくじいて転んでしまったせいで、流石に気付かれた。
余程吃驚したのか、寺島は歌うのをやめてしまった。

「あ、邪魔して悪かったわあ。あたしの事は気にせず、続けてや」
「無理!まだ途中だから…」
「途中でもええから。続き、聴きたい」
「そ、そんなエロい顔したってやんないからな!」

寺島は頑として続きを聞かせてくれなかった。
製作途中の曲を他人に晒したくないのは、なんとなく分かるけど。

「ま、ええわ。ところで、何でそんなに悲しげに…ってか、切なげに歌ってたん?珍しい」
「…っ!」
「おーい寺島、どうしたん?」

いくら声をかけても返事は無く、赤面して俯いてしまった。
よく見たら耳まで真っ赤。

これはもしかして…

「さっきの曲って、ラブソング?」
「ち、違う!これは…その…」
「…わっかりやすい反応やわー」

寺島は顔を上げたと思ったら、瞳を見開いて首を横に振った。

そんなん見たら、ぶっちゃけガキでも分かる。
まあ、そんな馬鹿正直な所が気に入ってたりするんだけど。

あんまり可愛いもんだから寺島の髪をくしゃりと撫でると、奴は決まりが悪そうに見上げてきた。

「あの、さ…日高。もしかして、歌詞…聞き取れた?」
「あー。聞き取ったんやけど、意味までは分からんかった。全部英語やったんやもん…英語は苦手や」
「そっか…なら良いんだ、うへへ」
「もう、何やねん!」
「気にすんな!…あの曲、完成したら日高に一番最初に聴いて欲しい」
「ええの?楽しみやわあ」
「お、おう!期待しとけ」

そう言いながら寺島は、さっきの曲の譜面をしまってしまった。
この話はもうおしまいって事らしい。

でも見てしまった、楽譜の隅っこに『日高へ』って書いてあったのを。
最初からあたしに贈るつもりで、あんなラブソングを?

それだったら…終わりになんか出来ない。

「日高?何か難しい顔してたけど、大丈夫か?」
「…うん、大丈夫や。さっきの詞の意味を考えてたら、分かんなくて頭が痛くなっただけ」
「い、意味なんか考えなくても良いって…今は」
「そうか。なら皆が来る前に、おやつ食べよか?」
「おやつ!?」
「じゃーん!デパ地下のケーキ屋の、限定シュー!!」
「おおう!俺、それ喰いたかったんだよな!!」
「だと思った。ナオくんに見つかる前に食べようやv」
「おうv」

でも、こんな嬉しそうな表情してシュークリームを頬張る寺島を見て、今は黙っておこうと思った。
この心地良い時間を、もう少し味わっていたかったから。


この小話は、西瓜嬢がネタを提供してくれました。
そういえばそうですね。やっぱ主人公前に押し出さなきゃって事で☆
ありがとうございます。肉付けには苦労しました。
思い付きで出したネタをここまで形にしてくださって感謝感激あめあられ。
いやいや。ちゃんと形になってるか不安です;
なってますぜ☆この調子でどんどん小話生産していって下さい。設定作ったからには皆出さなきゃね!
そう言って貰えると文字書き冥利につくってばよ。君も萌絵を描こうね(ニコ)
…がんばるんだってばよ…。

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